学力低下

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学力低下(がくりょくていか)とは、特に1980年代以降の日本において、学力が低下したとする教育問題。1990年代から大学関係者の間で学生の学力低下が話題になっていたが、1999年に出版された岡部恒治他著「分数ができない大学生」で世間に広く知られるようになった。

目次

[編集] 「学力低下」を巡る議論

[編集] 試験・調査結果

学習到達度調査(PISA)

経済協力開発機構(OECD)が、2003年に世界各国の15歳の生徒を対象に行った学習到達度調査(PISA)で、日本の順位が下がったことから、マスコミで盛んに「ゆとり教育で学力が低下した」と報道されることになった。

2007年12月に発表されたPISA2006の被験者(当時高校1年生)は、小学6年生からゆとり教育を受けている世代として結果が注目されたが、読解力は14位→15位へ(統計的には9~16位グループ)、数学的リテラシーは6位→10位へ(同4~9位)、科学的リテラシーは2位→6位へ(同2~5位)へ、と全分野で順位を下げる結果となった。また、同一問題による正答率の比較でも、前回を下回る問題の方が多かった。

PISA2003では、日本は読解力でレベル1あるいはレベル1未満の下位層の割合が増えていること、及びフィンランドや韓国と比べて下位層の割合が高いことが問題視された。さらにPISA2006では、数学でレベル5やレベル6といった上位層の割合が減っているなど、新たな課題も判明した。

読解力の正答率の推移と比較では、2000年、2003年、2006年で共通に実施された(同一)問題28題について、平均正答率は00年が65.2%、03年が62.2%、06年59.5%であり、年ごとに低下していた。正答率の比較では、06年は03年より上回った問題は6問、下回った問題は22問であった。そのうち5ポイント以上、上回った問題が1問、下回った問題が6問だった。

科学的リテラシーの正答率の推移と比較では、2003年と2006年で共通に実施された(同一)問題22題について、平均正答率は03年が59.5%、06年が60.1%であった。正答率の比較では、06年は03年より上回った問題は13問、下回った問題は8問、変わらず1問であった。そのうち5ポイント以上、上回った問題が1問、下回った問題が1問であった。

また、2000年と2006年の共通問題14題について、平均正答率は00年が65.7%であったのに対して、06年は61.5%であり、00年に比べ約4.2%低下していた。正答率の比較では、06年は00年より、上回った問題が9問、下回った問題が4問、変わらず1問だった。そのうち5ポイント以上、上回った問題が0問、下回った問題が4問だった。

数学的リテラシーの正答率の推移と比較では、2003年と2006年で共通に実施された(同一)問題48題について、平均正答率は03年が56.1%、06年が53.4%であり、約2.7%低下していた。正答率の比較では、06年は03年より、上回った問題が8問、下回った問題が40問だった。そのうち5ポイント以上、上回った問題が1問、下回った問題が10問だった。

国際数学・理科教育動向調査(TIMSS)

2003年に国際教育到達度評価学会(IEA)が行った国際数学・理科教育動向調査TIMSS2003)[1]では、小学4年生の算数の平均得点は1995年より3点低くなったが統計上の誤差を考慮すると有意差はなかった[1]。小数第2位までのひき算「4.03-1.15」では、正答率が95年の87.3%から03年の72.3%へと15.0ポイントも下げている。中学2年生の数学同一問題全79題の平均正答率は、1999年より4%低くなっていて、前回より上がった問題が7問、下がった問題が72問となっている。

同時に行われた調査では、「数学の勉強が楽しい」かについて「強くそう思う」割合は9%(前回は6%)と若干増えたものの、国際平均29%と比べると依然低いままであった。また「そう思う」割合は30%(前回33%)、「そう思わない」「まったくそう思わない」割合は61%(前回61%)、前々回(1995年)の54%より7%増えた。

苅谷剛彦他の調査

苅谷他が行った学力調査では、89年と01年の同一問題との比較では、小学国語で78.9%→70.9%(-8.0%)、小学算数で80.6%→68.3%(-12.3%)、中学国語で71.4%→67.0%(-4.4%)、中学数学で69.6%→63.9%(-5.7%)へと大幅に下がっていることがわかっている(調査報告「学力低下」の実態(岩波ブックレット))。

耳塚寛明が行った調査

学業達成の構造と変容(2002より)では、児童数7998人を対象に、算数129題で82年と02年で正答率の比較をする調査を行っている。その結果、小学1年で85.6%→81.0%(-4.6%)、小学2年81.7%→73.3%(-8.4%)、小学3年84.9%→73.5%(-11.4%)、小学4年84.4%→77.9%(-6.5%)、小学5年84.5%→76.8%(-7.7%)、小学6年85.5%→79.9%(-5.6%)とすべての学年において正答率が下がっていることがわかっている。

小・中学校教育課程実施状況調査

2003年に国立教育政策研究所が行った平成15年度 小・中学校教育課程実施状況調査 (無作為抽出により,1学年1教科1問題冊子当たり,1万6千人対象 小学校 1万6千人×4教科×3冊子÷2(1人2教科)×1.1×2学年 中学校 1万6千人×5教科×3冊子÷3(1人3教科)×1.1×3学年) では、多くの学年、教科で前回調査と同一の問題については、正答率が有意に上昇した設問が、正答率が有意に下降した問題よりも多かった。特に、小学生と中学3年生の上昇が顕著で、理科では前回より正答率が上昇した。

また、アンケートで「勉強が好き」「どちらかというと好きだ」と答えた子の割合は増加傾向にあった。

高等学校教育課程実施状況調査

2007年4月13日に文部科学省が発表した教育課程実施状況調査[2] (6教科12科目。1科目1問題冊子当たり 1万6千人対象。各教科問題冊子は二種類のうち一つ)

では、平成10年以降の指導要領で学んだ高校生はそれ以前の指導要領で学んだ高校生に比べ、同じ内容の問題181問(総数657問中)において、145問は正答率が前回並、26問は前回を上回り、10問は前回を下回るという結果になった。内訳は、国語(上1、同4、下5)、数学(上0、同11、下0)、英語(上4、同16、下1)、地歴公民(上10、同58、下0)、理科(上11、同56、下4)で、前回を有意に上回る問題の多くは、地歴公民と理科に見られた。

同時に学習についての意識面でも「勉強は大切」と答えた生徒の割合は増加するなど、学力に関する肯定的な傾向もみられた。これについて調査を行った国立教育政策研究所は、「(学力は)改善の方向に向かっている」と分析したが、同じ内容の問題で正答率が前回より上回った問題は26問しかなくしかも化学(理科)など特定の科目に偏っていたこと、文部科学省が設定した想定正答率を下回る問題が多いなどの課題もみられた。

大学入試センター試験

2006年1月に行われた大学入試センター試験では、現役受験生は中学3年生から新学習指導要領で学んだ1期生となった。新学習指導要領では学習内容が減り、入試で高校生の学力低下が表面化するのではないかと注目されていた。ところが、予備校の実施する模擬試験などの結果によると、ゆとり教育世代の現役生が例年に比べ、学力が極端に落ちたという傾向は出ていないという。[要出典]

[編集] 学力低下はあるとする主張

苅谷剛彦らは2002年に『「学力低下」の実態』で、1989年と2001年とで同じ問題を小中学生に答えさせる学力に関する調査を比較し、基礎学力の低下を指摘した(学習指導要領は、1991年に「知識詰め込み型」から「自ら学び、主体的に考える型」に改訂されている)。

同調査では

  • 1989年と2001年では、小中学生の学力は明らかに低下している
  • 塾に通っている子供と通っていない子供とでは、学力に差がみられる(なお、通塾率はほとんど変化していない)。
    • ただし、2001年に塾に通っている子供でも1989年の塾に通っていない子供に点数で負けている部分があり、塾に通っても学力低下をカバーしきれない部分がある
    • 授業形態を「伝統型」「全力型」「新学力観型」「あいまい型」と分類して分析してみると、「伝統型」や「全力型」の授業では、通塾と非通塾の差は10点台に抑えられているのに対して、「新学力観型」「あいまい型」の授業では、通塾と非通塾者との得点差が23~26点となっていた。
  • ゆとり教育によって空いた時間は、勉強ではなく、テレビを見たり、テレビゲームで遊ぶことに費やされる傾向にある
  • 学ぶ意欲や関心には、子供の属する家庭の社会階層によって差がある。基礎学力が十分でない子供に「自分で考え、主体的に行動する」ことを目的とした授業を受けさせても、かえって格差を拡大させる。
  • 「基礎学力」と、「自分で考え、主体的に行動する能力」には相関があり、基礎学力が低い子供は「自分で考え、主体的に行動する能力」も低い。
    • そのため、「詰め込み教育を脱し総合学力を重視する教育形態にしたことによって、従来の知識偏重の学力は低下したかもしれないが、自分で考え、主体的に行動する力はついている」という考えに異議をのべている。
  • 一方で、学校が相当熱心に指導している学校においては、たとえ塾に通っていない子供でも、学力の低下を相当程度抑えることができる

といった点を指摘している。

苅谷は、こうした現状を見ずに「ゆとり教育」と「詰め込み教育」という2つの立場でしか状況を把握しない振り子理論や、「学力とはなんぞや」という水掛け論を非難している。また、学力調査に付随する家庭環境に関する調査が、欧米では当たり前に行われているのに、日本では行われておらず、学力低下の原因を把握できない現状を指摘した[2]。そして不平等が拡大する中で、義務教育が果たすべきセイフティーネットとしての役割を議論すべきとしている。

[編集] 学力の低下に疑問を呈する議論

  • PISA国際数学・理科教育動向調査(TIMSS2003)、苅谷他、耳塚のデータでは、学力低下が認められる結果が出ている一方、国立教育政策研究所が行った教育課程実施状況調査では、学力低下が認められず、むしろ2001年より2003年の方が正答率において有意に上回る問題の方が多いという結果が出ている。
  • OECDによる学習到達度調査(PISA)調査において、順位低下やスコアの低下を持って学力が低下していると結論づけることに懐疑的な立場もある。例えば、その根拠として、参加国数の増加があげられる。しかし、正答率の比較において2000年よりも2003年、2003年よりも2006年で、前回を下回る問題の方が多いのも事実である。
  • 教育課程実施状況調査では、同一問題による比較の結果、小中では2001年度より2003年度の方が、高校では2002年度より2005年度の方が、学力が高いという結果が出ている。しかし、調査主体が文部科学省が所轄の国立教育政策研究所であること、また出題されている問題はゆとり教育下での削減された内容に限られており、基本的に出題内容が公表されていないことから、結果に対して慎重な見方が必要なことも確かである。
  • 全国学力・学習状況調査では「知識・技能の定着は良好で、むしろ活用力に問題あり」とされたが、そもそも計算問題より文章題の方が正答率が低くなるのは当然であり、A問題よりもB問題の方が正答率が低いからといってそのように解釈することには問題があると指摘する専門家もいる。
    • 特に、算数・数学のA問題においては、小6「28+72(正答率98.3%)」、中3「2/3÷5/7(正答率83.2%)」など、出題内容が容易すぎ、学力低下の実態を把握するにはあまりにも問題設定が不適切であるという専門家の指摘がある。
  • 「学力低下の問題に関しては、お互いに自分の主張に有利な調査結果を持ち出して論を組み立て、不利な調査結果に対しては『調査の前提が異なっている』という批判を加える」という水掛論が珍しくない。[要出典]
  • とくにゆとり教育を擁護する立場からは「何を学力とするか」「その学力をどのように評価するか」が一定でなく、単純に「学力が低下した」と断定することはナイーブであるという意見がある。

[編集] 「ゆとり教育」が「学力低下」の最も主要かつ直接的な原因なのかという議論

  • これまでの調査で、学力低下の実態は1980年代の後半、あるいは1990年代から始まっているとされ、OECDによる学習到達度調査(PISA)では2000年と2003年の間での成績の低下から、ゆとり教育が学力低下の原因であるとする立場が多い。
  • 1992年から導入された新しい学力観が学力低下の主たる原因であるという立場もある。
  • 「学力低下」論争のきっかけとなったOECDによる学習到達度調査(PISA)において、全ての項目で日本を上まわったフィンランドは、週休二日制である。また総合学習に相当する時間も日本より多く、ゆとり教育に近い内容である。よって、時数削減や総合学習と「学力低下」は無関係であるという指摘も存在する。
    • これに対しては「制度だけ真似てもその教育システムを動かしているソフトウェアが異なっていては意味が無い」という批判が提出されている。さらにヨーロッパの学校では日本やアメリカの学校に比べて体育、家庭科などの授業が少ない、あるいは存在しない。更に音楽や芸術などは選択である場合がほとんどなので同じ週休二日制でも基礎科目である国語・数学の授業時間が日本より上回るという事実がある。[要出典]
    • 特にフィンランドにおいては、授業時間こそ日本よりも少ないもの、例えば「3/8+3/8+1/8」のような3つの数の分数計算も教えているなど学習内容は日本より充実しており[要出典]、必ずしもフィンランドが日本と同じゆとり教育であるという指摘は適切ではない。[要出典]
  • 高等学校必履修科目未履修問題」のように、文部科学省学習指導要領を変更したからといって、それが全て教育現場に反映するわけではない。むしろ各学校では、受験に関係する科目の時間数を増やす傾向がある。
    • この点において、例えばPISA2006で読解力がトップだった韓国では、大学受験に論述式を導入したことが影響しているという指摘もある。

[編集] 保護者の意識

学力低下への不安から、子供を塾に通わせる意識は高くなっており、塾費用は増加している[3]

学力低下の要因としては、ゲームや漫画、ゆとり教育、教師の質の低下を挙げている。

『学力低下の原因(複数回答)では「ゲームやマンガなど誘惑の増加」53%がトップ。続いて、「授業時間の削減」50%、「教師の質の低下」41%』[4]
注:なお、『「学力低下」の実態』では、週休二日制によってできた土曜日などの空き時間は、学習ではなく遊びに使われるようになったと報告している。

[編集] 影響

1999年に「分数ができない大学生」が出版されて以来学力低下論争が起こり、多くの学力向上メソッドが脚光を浴びるようになった。中でも、陰山メソッドの百ますドリルは2003年にベストセラーとなった。

[編集] 脚注

  1. ^ 国際数学・理科教育動向調査の2003年調査(TIMSS2003) 表1-4, 1-5参照。 http://www.nier.go.jp/kiso/timss/2003/table.pdf
  2. ^ なお、2007年4月に行われた学力テストでは家庭の生活習慣などを聞いているが、京都の小中学生9名が「「国家による家庭教育への支配介入で、教育基本法憲法26条に反する」と主張し」(2007年4月17日付 毎日新聞より引用)実施差し止めを求め裁判を起こしている。
  3. ^ 2005年12月15日付 『小学生の塾費用16%増加 学力低下の不安から』朝日新聞
  4. ^ 『学力低下「不安」81%、ゆとり教育反対増加』2005年2月6日付配信 読売新聞

[編集] 関連項目

[編集] 参考文献

[編集] 外部リンク